
はじめに
ランサム被害が、依然として深刻な状況にあります。
警察庁が2026年9月に公表した「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、2026年上半期に警察へ報告されたランサムウェア被害は123件でした。
これは、統計を取り始めた2020年下半期以降、半期として過去最多です。
特に注目したいのは、大企業だけではなく、中小企業でも多くの被害が確認されていることです。
また、侵入経路ではVPN機器が多く、被害後の調査や復旧に1,000万円以上かかった組織も少なくありません。
この記事では、警察庁が公表した2026年上半期のデータをもとに、現在のランサム被害の特徴と、企業があらためて確認しておきたい対策について解説します。
2026年上半期のランサム被害は123件
2026年上半期に警察へ報告されたランサムウェア被害は123件となりました。
これまで半期で最も多かった2022年下半期と2025年上半期の116件を上回り、統計開始以降で最多となっています。
ここで注意したいのは、この123件が国内で発生したランサム被害のすべてではないという点です。
あくまで警察へ報告された企業・団体等の被害件数であり、実際には表面化していない被害も存在する可能性があります。
つまり、「123件しか発生していない」と考えるのではなく、ランサムウェア被害が高い水準で続いていることを示す一つの指標として見る必要があります。
また最近では、データを暗号化するだけでなく、企業から情報を窃取し、「公開されたくなければ金銭を支払え」と要求する手口も確認されています。
さらに、データを暗号化せず、窃取した情報だけを材料に金銭を要求する「ノーウェアランサム」の被害も報告されています。2026年上半期には、こうした被害がランサムウェアとは別に9件報告されています。
ランサムウェア対策では、ファイルの暗号化だけを想定するのではなく、情報窃取も含めた対策が必要になっています。
ランサム被害の約6割を中小企業が占める
企業規模別に見ると、123件の内訳は次のとおりです。
・中小企業:79件
・大企業:31件
・団体等:13件
中小企業だけで全体の約64%を占めています。
ランサムウェアというと、「狙われるのは大企業」というイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし実際には、企業規模に関係なくランサム被害が発生しています。
特に中小企業では、情報システム担当者が少なかったり、セキュリティを他の業務と兼任していたりするケースも珍しくありません。
セキュリティ機器の更新やアカウント管理が十分に行われていない環境があれば、攻撃者に侵入の機会を与えてしまう可能性があります。
「自社には盗まれるような情報がない」「会社が小さいから狙われない」と考えるのではなく、インターネットにつながっている以上、攻撃対象になる可能性があることを前提に対策を考える必要があります。
製造業でランサム被害が最も多い
業種別では、製造業が37件と最も多くなっています。
続いて、次のような業種で被害が確認されています。
・卸売・小売業:15件
・情報通信業:9件
・不動産業・物品賃貸業:9件
・医療・福祉:9件
・建設業:8件
このように、幅広い業種でランサム被害が発生しています。
特に製造業では、生産管理システムや設計データ、受発注システムなど、業務を継続するために欠かせないシステムやデータを多く扱っています。
ランサムウェアによってこれらが利用できなくなれば、単にパソコンが使えなくなるだけではありません。
工場の生産停止や出荷停止、取引先への納期遅延など、事業全体へ影響が広がる可能性があります。
一方で、今回の統計では製造業以外にもさまざまな業種で被害が確認されています。
そのため、「特定の業界だけが注意すればよい問題」ではありません。
ランサム被害はどこから侵入するのか
ランサムウェア対策を考えるうえで重要なのが、攻撃者がどこから企業ネットワークへ侵入しているのかという点です。
2026年上半期に被害を受けた企業・団体へのアンケートでは、侵入経路が判明したケースのうち、VPN機器からの侵入が約5割を占めています。
VPNは、社外から社内ネットワークへ安全に接続するため、多くの企業で利用されています。
しかし、VPN機器に脆弱性が残っていたり、認証情報が攻撃者に知られていたりすると、逆に社内ネットワークへの入口として悪用されることがあります。
警察庁もランサムウェア被害防止対策として、VPN機器などの脆弱性を塞ぐことや、認証情報を適切に管理することを呼びかけています。
まず確認しておきたいのは、次のような基本的な対策です。
・VPN機器やOSを最新の状態にしているか
・公開されたセキュリティパッチを適用しているか
・使用していないアカウントが残っていないか
・簡単なパスワードを使用していないか
・多要素認証を利用しているか
特にVPN機器やネットワーク機器は、一度導入するとそのまま使い続けてしまうケースもあります。
現在利用している機器のバージョンやサポート状況を、定期的に確認することが重要です。
ランサム被害の復旧費用は1,000万円以上が約6割
ランサムウェア被害で注意したいのは、感染そのものだけではありません。
被害が発生した後には、原因調査やシステムの復旧などにも大きな費用が発生します。
2026年上半期に被害を受けた企業・団体へのアンケートでは、ランサムウェア被害に関する調査・復旧費用について、総額1,000万円以上を要した組織が約6割を占めました。
さらに、復旧期間についても、1か月未満で復旧できた組織は5割弱にとどまっています。
ランサム被害によって業務システムが停止した場合、次のような対応が必要になります。
・原因や侵入経路の調査
・感染端末の確認
・サーバやパソコンの復旧
・バックアップからのデータ復元
・セキュリティ環境の再構築
・顧客や取引先への説明
その間、通常業務にも影響が発生します。
つまり、ランサムウェア被害で考えるべきコストは、身代金だけではありません。
復旧費用や業務停止による損失、社内外への対応なども含めて考える必要があります。
ランサム被害に備えるバックアップの注意点
ランサムウェア対策として、バックアップは非常に重要です。
しかし、「バックアップを取っているから大丈夫」とは限りません。
2026年上半期の被害企業・団体へのアンケートでは、バックアップを取得していた組織の中でも、実際にデータを復元できなかったケースが確認されています。
バックアップからの復元状況について回答した40組織のうち、復元できたのは11組織でした。
復元できなかった29組織の中には、バックアップ自体が暗号化・消去されていたケースもあります。
ランサム被害に備えるうえで重要なのは、バックアップを「取ること」だけではありません。
被害が発生したときに、次の点まで確認しておく必要があります。
・バックアップが攻撃の影響を受けないか
・必要なデータが保存されているか
・実際に復元できるか
・復旧までにどの程度時間がかかるか
定期的に復元テストを行い、実際のインシデントでも利用できる状態になっているか確認することが重要です。
「侵入を防ぐ」だけでなく「被害を広げない」対策も重要
もちろん、VPN機器の更新や多要素認証、脆弱性対策など、攻撃者を社内ネットワークへ侵入させないための対策は重要です。
しかし、どれだけ対策しても、すべての攻撃を完全に防げるとは限りません。
そのため、「侵入されないための対策」だけではなく、次のような視点も必要になります。
「侵入された場合に、どれだけ早く異常に気づけるか」
「ランサムウェアが動き始めた場合に、どこまで被害を抑えられるか」
例えば、エンドポイントで不審な動きを監視する仕組みや、ファイルの大量変更・暗号化といった通常とは異なる挙動を検知する仕組みもその一つです。
また、バックアップや復旧手順、感染した端末をネットワークから切り離す方法なども、あらかじめ確認しておく必要があります。
ランサム被害を抑えるためには、一つの対策だけに頼るのではなく、侵入防止、検知、被害拡大防止、バックアップ、復旧まで複数の対策を組み合わせることが重要です。
今一度、自社のランサム被害対策を確認する
2026年上半期の123件という数字から分かるのは、ランサムウェアが過去の脅威ではないということです。
むしろランサム被害の報告件数は半期として過去最多となっており、中小企業を含め、多くの企業が被害を受けています。
まずは難しい対策から始める必要はありません。
現在利用しているVPN機器に脆弱性がないか、パスワード管理は適切か、バックアップから本当にデータを復元できるか。
こうした基本的なところから確認することが大切です。
さらに、万が一侵入された場合を想定し、不審な挙動を早期に検知できる仕組みや、被害を最小限に抑えるための対策もあわせて検討しておく必要があります。
まとめ:ランサム被害を防ぐために対策を見直す
2026年上半期に警察へ報告されたランサムウェア被害は123件となり、2020年下半期の統計開始以降、半期として過去最多となりました。
ランサム被害を受けた企業・団体のうち、中小企業が大きな割合を占め、業種別では製造業が最も多くなっています。
また、侵入経路ではVPN機器が約5割を占め、調査・復旧費用が1,000万円以上となった組織も約6割に上っています。
ランサムウェア対策では、感染を防ぐことだけを考えるのではなく、侵入された場合の検知や被害拡大防止、バックアップ、復旧までを含めて考えることが重要です。
ランサム被害が発生してから対策を考えるのではなく、まずは自社の現在の対策に抜けがないか、今一度確認してみてはいかがでしょうか。
参考
警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」
2026年9月10日公表