
ランサムウェアの定義
ランサムウェア(Ransomware)は「身代金(Ransom)」と「ソフトウェア(Software)」を組み合わせた用語で、ユーザーのコンピュータシステムに侵入し、データを暗号化したりシステムへのアクセスを制限した後、お金を要求する悪意のあるプログラムを指します。
攻撃者は標的としたユーザー・組織のデータを復号化し、アクセス可能にする見返りとして「身代金」、追跡が困難な暗号通貨を要求します。
しかし、一部のランサムウェアグループは身代金を受け取ってもデータを復旧させない、あるいはデータを漏洩させるケースもあります。
このようにランサムウェア感染時には個人ユーザーや企業・機関、基幹インフに膨大な被害が生じる可能性があるため、定期的なバックアップとセキュリティ強化を通じて強力な対応体制を整える必要があります。
ランサムウェアの種類
ランサムウェアは攻撃手法と標的に応じて複数のタイプに分類できます。
代表的なタイプとしては「暗号化型ランサムウェア」と「ロッカー型ランサムウェア」があり、最近では「サービス型ランサムウェア」という新たなタイプが登場し、その脅威をさらに高めています。
● 暗号化型ランサムウェア (Crypto Ransomware):
システムに侵入しユーザーのファイルを暗号化する最も一般的なランサムウェアタイプです。
暗号化されたファイルは通常の方法では開けず、攻撃者は復号鍵と引き換えに身代金を要求します。
WannaCry(ワナクライ)やNotPetya(ノットペトヤ)が代表的な事例です。
このタイプのランサムウェアは個人の文書、写真、動画だけでなく、企業の重要なデータベース、設計図面、営業秘密などを暗号化し、深刻な被害をもたらす可能性があります。
● ロック型ランサムウェア (Locker Ransomware):
ファイル暗号化ではなくシステム自体をロックし、ユーザーのコンピュータへのアクセスを遮断するタイプです。
コンピュータの起動または特定プログラムの実行を制限したりして、ユーザーが正常な作業を行えないようにします。
暗号化型ランサムウェアに比べ復旧の可能性はやや高いものの、システム使用不能による業務停止や心理的な圧迫感を引き起こします。
● サービス型ランサムウェア (Ransomware-as-a-Service, RaaS):
ランサムウェア攻撃のためのツールとインフラを提供するサービスです。
ランサムウェア開発者はプログラムを開発し、これを他の攻撃者が使用できるように販売または賃貸します。
RaaS利用者は複雑な技術知識がなくてもランサムウェア攻撃を容易に実行でき、開発者は攻撃成功に伴う収益を分配されます。
これによりランサムウェア攻撃が容易になり、攻撃頻度と規模が急増しています。
主な感染経路
● メール添付ファイルまたはリンククリック(スピアフィッシング、Spear phishing):
ランサムウェア感染の最も一般的な方法はメールを介した攻撃です。
攻撃者は、不正コードを含む添付ファイルを送信したり、悪意のあるウェブサイトへ誘導するリンクを仕込んだりしてユーザーを騙します。
特にスピアフィッシング攻撃は、高度なソーシャルエンジニアリング技術を活用し、ユーザーが疑いなく添付ファイルを開いたりリンクをクリックしたりするよう仕向けます。
偽の請求書、注文確認書、配送案内などに偽装したメールでユーザーを巧妙に騙します。
●脆弱なウェブサイトの訪問または広告クリック(マルバタイジング、Malvertising):
ユーザーがセキュリティが脆弱なウェブサイトを訪問したり、悪意のある広告(マルバタイジング)をクリックすると、ランサムウェアに感染する可能性があります。
攻撃者はウェブサイトのセキュリティ上の脆弱性を悪用して不正コードを埋め込んだり、広告ネットワークを通じて悪意のある広告を拡散します。
ユーザーがこれらのウェブサイトを訪問したり広告をクリックすると、即座に同意なしに不正コードが自動的にダウンロードされ実行されます。
●ソフトウェア脆弱性の悪用:
OS、ウェブブラウザ、プラグインなどのソフトウェアのセキュリティ脆弱性は、ランサムウェア攻撃の主要な経路として利用されます。
攻撃者はこれらの脆弱性を巧妙に利用してシステムに侵入し、不正コードを実行します。特に古いソフトウェアやセキュリティアップデートが不備なシステムはより危険であるため、最新バージョンへの継続的かつ徹底的なアップデートが不可欠です。
● セキュリティが脆弱なネットワークを通じた侵入:
セキュリティが脆弱なネットワークは、ランサムウェア感染のもう一つの主要な経路です。
パスワードのないWi-Fiネットワークやセキュリティが脆弱な共有フォルダを通じて、ランサムウェアが急速に拡散する可能性があります。
企業内部ネットワークのセキュリティが不十分な場合、たった1台のシステム感染で瞬時にネットワーク全体へ拡散するリスクが高まります。
●不正ソフトウェアのダウンロード:
不正ソフトウェア、クラック、キージェネレーターなどをダウンロードする際にランサムウェア感染リスクは極めて高まります。
これらのファイルの大半は不正コードを内蔵しており、実行と同時にランサムウェアがインストールされる可能性があります。
また不正ソフトウェアはセキュリティアップデートが根本的にできないため、システムの脆弱性をさらに悪化させます。
ランサムウェアの予防および対応方法
1) 予防
● 定期的なデータバックアップおよびリストアシステムの構築:
ランサムウェア対応の重要な予防法は、データを定期的にバックアップし、安全に管理することです。
万が一ランサムウェアに感染しても、バックアップされたデータでシステムをリストアすることで身代金の支払いなく、被害を最小限に抑えられます。
バックアップは外部ストレージやクラウドストレージなど様々な方法で実施でき、3-2-1ルール(3つのバックアップ、2つの異なる形式、1つのオフラインコピー)を適用するのが最も安全です。
● 最新のセキュリティパッチとソフトウェアアップデートの維持:
ソフトウェアの脆弱性を悪用したランサムウェア攻撃を防ぐためには、OS、ウイルス対策プログラム、ウェブブラウザ、アプリケーションなどを常に最新バージョンにアップデートする必要があります。
セキュリティアップデートは既知のセキュリティ脆弱性を補完し、ランサムウェアの侵入経路を根源的に遮断します。
● 強力なパスワード設定と多要素認証の利用:
推測が困難な複雑なパスワードを使用し、可能な限り全てのアカウントに多要素認証(Multi-Factor
Authentication, MFA)を設定してアカウントの奪取を防止する必要があります。多要素認証はパスワード以外に追加の認証手順を要求するため、ハッカーがパスワードを解読してもアカウントへのアクセスを困難にします。
●不審なメール及びリンククリックへの注意:
ランサムウェアは主にスパムメールやフィッシングメールで拡散されます。
送信元が不明または疑わしいメールは開封せず直ちに削除し、含まれるリンクや添付ファイルを安易にクリックしないよう注意が必要です。
緊急を要する内容や個人情報を要求するメールは、必ず送信先を確認した上で信頼できる場合にのみ対応が必要です。
2) 対応方法
● 感染事実を認識したら直ちにシステムを隔離:
ランサムウェア感染が疑われる場合は、直ちに該当システムをネットワークから完全に分離し、追加感染を防止します。
ネットワークケーブルの抜去やWi-Fi接続の切断などによりインターネット接続を遮断することが重要です。
● セキュリティ担当者または関連機関に通報:
ランサムウェア感染事実を確認したら、遅滞なくセキュリティ担当者やの関連機関に通報し、専門的なサポートを受ける必要があります。
ランサムウェア攻撃の最新動向
● 攻撃対象の多様化(OT/ICS環境、クラウド環境など):
従来は一般企業と個人ユーザーが主な攻撃対象でしたが、最近では攻撃範囲が運用技術(OT)および産業制御システム(ICS)、クラウド環境などに急激に拡大しています。
工場自動化システム、エネルギー管理システムなどがランサムウェアに感染すると、生産停止や設備破壊といった深刻な被害を招く可能性があります。
さらに、クラウド環境のデータがランサムウェアに感染すると、企業の重要情報漏洩やサービス中断につながる恐れがあります。
●二重脅迫(データ流出後の暗号化):
最近のランサムウェア攻撃は、単にデータを暗号化するだけでなく、データを漏洩させた後に公開すると
脅迫する二重脅迫方式が増えています。
攻撃者は暗号化されたデータの復旧に加え、漏洩したデータの非公開を条件に二重の身代金を要求します。
このような二重脅迫は企業の評判低下や法的問題など追加的な被害を引き起こす可能性があり、より深刻な脅威となっています。
特に個人情報や営業秘密といった機密情報が漏洩された場合、企業は莫大な損失を被ることになります。
●攻撃グループの専門化・組織化:
ランサムウェア攻撃グループは次第に専門化・組織化を進めています。高度な技術力を持つ専門家を採用し、体系的な攻撃計画を立案することで攻撃成功率を高めています。
また、ランサムウェア開発、攻撃インフラ管理、身代金交渉など各分野ごとに細分化された役割分担を通じて、より効率的な攻撃を実行しています。
● AI/ML技術を活用した攻撃の試み:
最近では人工知能(AI)及び機械学習(ML)技術を積極的に活用したランサムウェア攻撃が登場しています。
AI/ML技術は、マルウェア分析、攻撃対象選定、ソーシャルエンジニアリング攻撃の自動化など様々な分野で活用できます。
例えば、メール内容をAIで分析し、ユーザーの興味に合わせたカスタマイズ型フィッシングメールを作成することで、攻撃成功率を大幅に高めることができます。
最後に
DXが急速に進む中、企業の情報資産はこれまで以上に重要な価値を持つようになりました。
しかし、こうした情報資産を狙う脅威も絶えず進化しており、特にランサムウェアは企業の存続を脅かす最も強力なサイバー攻撃の一つとして定着しています。
ランサムウェア攻撃は外部からの侵入だけでなく、内部関係者の不注意や悪意ある行動によっても発生し得る点を決して見過ごしてはなりません。
したがって、ランサムウェアに対する継続的な関心と備えはもちろん、内部者脅威に対する警戒心を高め、これを予防するための多角的な取り組みが不可欠です。
内部者の小さなミスや油断がランサムウェアという巨大な災厄につながらないよう、組織全体がセキュリティ意識を強化し、予防及び対応体制を構築することがこれまで以上に重要です。